ハウザー2世に何の不満もなかったのですが、たまたま良いギターを見つけてしまい、買ってしまいました。知る人ぞ知る名工「ヘスス・ベレサール・ガルシア」です。エルナンデス・イ・アグアドの後継者であり、生涯に83本のギターしか製作しませんでした。
購入までの経緯
何でこんなところに?という場所にあったベレサール
ヘスス・ベレサール・ガルシアの名前自体は知っており、日本では名器として扱われていることも知っていました。
何しろ生涯に83本しか製作していないため、出会うこと自体が難しい楽器です。
ところがあるとき、何でこんなところにという場所で売っているのを見つけ、試奏しに行きました。
状態はパーフェクトとは言えず、明らかに修理が必要な箇所がいくつか見られ、そのために本来の実力が出せていない状態での販売です。
故障のためか良い音とは言えない状態で販売されていたこともあり、誰も手を出していませんでした。
でも、そんな音のなかにも光るものがあり、価格的にもリーズナブルだったため、購入した次第です。
やっぱり修理入院が必要だった
購入後に製作家に健康診断と修理に出したところ、予想通り修理が必要でした。
しかも当初想定していたよりも修理箇所が多く、しばらく弾かれていなかったことを感じさせます。
ただ、表面板の割れなどの致命的な故障はなく、修理で問題なく直る部分がばかりなのは幸いでした。
帰ってきたベレサールは入院前とはまったく異なり、素晴らしい音になっていました。
1985年製、死の直前の作品
私が今回購入したのは、1985年製の楽器です。
ヘスス・ベレサール・ガルシアは1986年に亡くなっているので、死の直前の作品といえます。
実際にシリアルナンバー的にもかなり最後の作品に近いものです。
この楽器自体、前のオーナーがクラシックギター界のかなり有名な方で、その方が亡くなったときに遺族の方が売りに出したそうです。
余談ですが、最後の作品(No. 183)は以前、ヤフオクで販売されていました:
Yahoo!オークション – 【美品】Jesus Belezar Garcia No.183 1985年製…
出品者は中古販売会社のようですが、どういう経緯でこの楽器を体に入れたのか気になるところです。
なで肩で優美なデザイン
デザインとしては、ハウザー2世に比べてなで肩で優美なデザインです。左がハウザー2世、右がベレサールなのですが、違いがわかりますでしょうか?

弦長は650mmと、ハウザー2世の655mmよりも短いです。
しかしながら、ボディサイズは明らかにベレサールのほうが大きく、ハウザー2世でピッタリのケースにベレサールは入りません。
音は素朴で優しい
音も見た目の印象通り優しく、和音を弾くとすべての音が1つに溶け込むような印象を受けます。
また、1つ1つの音は素朴で、低音は包み込むような大きさ、高音は木の音がするという、まさに伝統的なクラシックギターの音です。
音作りとして高音はメロディのために目立つ音、中音は和音を響かせる音、低音は下支えする音を狙って作られており、どの弦のどのポジションを弾いても同じような音がするという現代の楽器とは真逆に設計といえます。
ギターショップアウラのサイトにはヘスス・ベレサール・ガルシアの人となりが紹介されており、これを読むとやはり楽器には作った人の人間性が出るのでしょうか:
製作家ベレサールの想い出 | AURA – ギターショップアウラ
ハウザー2世との音の対比も面白いです。
ハウザー2世はどの弦も「俺が主役!」という感じで自己主張しており、それが音の分離というハウザーの特徴につながっているのですが、ベレサールは「みんな仲良くしようよ」といっているかのようで、個性の違いを感じさせます。
対照的な音の楽器なので、2つの楽器で同じ曲を弾くとギターの奥深さに気づかされるばかりです。
ヘッドはアグアドタイプで梨地加工あり、ブリッジは無塗装
ベレサールの特徴の1つが、アグアド譲りの梨地加工のついたヘッドです:

この楽器はヘッドの木が明るい色だったためか、梨地部分が黒く塗装されています。
また、ブリッジは無塗装です:

音と相まって、この部分も素朴さを感じさせます。
裏横板はローズウッドでしょうか?

工作精度は確かに低い、でも不思議と良い音かつ美しい出で立ち
エルナンデス・イ・アグアド、そしてその後継者のヘスス・ベレサール・ガルシアはいずれも工作精度が低いことで知られています。
私のベレサールもご多分に漏れず、ハウザーや以前持っていた桜井に比べると工作精度の低さを否定できません。
たとえば、指板とネックの間に明らかな段差を感じます。普通は指板とネックは面一で接着すると思うのですがなぜか少し幅に差があるようです。
また、修理依頼時に割れかな?と思って聞いてみたらそうではなく、どうも製作時のものらしいという傷(?)がありました。
ただ、不思議なのはこんなに工作精度が低いのになぜか音は抜群に良く、かつ見た目も優美であるという点。
日本でギターの名工と言われる人たちは皆工作精度は一様に高く、その上で音の個性を追求している気がします。
ベレサールは工作精度なんてギターにとって優先度は低く、それよりももっと音や優美さに時間や技を費やすべきだ!というコンセプトで作っているのでしょうね。ある意味古き良き時代だったのかもしれません。
買ってしまったからには弾き倒したい、でも資産価値にも期待したい・・・
ハウザー2世を買ったとき、もうほかの楽器は買わないといっていたのですが、早くも幻となりました。
買ってしまったからにはしっかりと弾きたおしたいと思いますし、まだ手に入れてすぐですが、それだけの価値がある楽器だと思います。
一方で、残りの人生どれだけギターが弾けるか考えると、資産価値にも期待したいというのが正直なところです。
現存する本数は少ないですが、知名度が低いのが気になるところで、かつどうしてもアグアドの後塵を拝してしまいます。
資産価値についてはおまけだと思って、まずはしっかりとこの楽器を鳴らせる実力を付けたいものです。